こんにちは。行政書士・社会保険労務士事務所 オフィスのぞみです。
昨日と今日で、厚生労働省関連の制度の見直しをめぐる興味深い報道に触れました。
一つは、「労働時間通算ルール」の見直し。
もう一つは、「脱退一時金制度」の見直し。
以下に、私個人の感想を述べたいと思います。
「労働時間通算ルール」の見直しへ
ご存じの通り、労働基準法第37条は、使用者が(1週間について40時間を超えて、また、1週間の各日について8時間を超えて)労働時間を延長した場合においては、割増賃金を支払うことを求めています。
そして、労働基準法38条第1項では「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定め、またここでいう「事業場を異にする場合」とは、同じ会社の別の事業場にとどまらず、事業主を異にする場合を含むとされています(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))。
これは、どういう意味かというと、たとえば、労働者甲が
■8時から17時までA社で勤務(休憩時間を除き実働8時間)
■18時から24時までB社で勤務(実働6時間)
したとすると、B社での勤務はすべて、1日8時間を超える労働時間に該当することとなり、B社は6時間すべてに対して割増賃金を支払うのが原則となります(労働時間通算の順序については、※補足をご参照ください)。
けれども、これには大きな違和感を感じる方が多いと思います。
そもそも、B社は、甲さんがA社で何時間働いてきたかをどのように把握するのでしょうか。
また、現実的な問題として、自社では一日8時間未満しか働かないのに、提供された労働全てに対して割増賃金を払わなければならないとすると、そのような労働者甲さんをB社は採用しようとするでしょうか。
このように、いわゆる「通算ルール」については、運用面において現実的ではないことが指摘されてきました。
そこに、政府の「副業促進」という方針が重なり、厚生労働省は今回、「通算ルール」を見直す検討を行い、年度内の報告に盛り込まれる見通しとなったようです。
ところが、です。
この「通算ルール」の見直し自体は、使い勝手や実効性という点からも必須だったとは考えますが、そもそも、政府は、「働き方改革」だ「時間外労働の上限規制」だと、労働時間を減らそうとしているのではないのでしょうか?
その動きと、この「通算ルール」の見直しは両立するのでしょうか?
そもそも、「副業促進」と「労働時間の上限規制」は両立するのでしょうか?
月に何度か、休日に、気分転換として、あるいは、正業とは別のやりがいを求めて、すすんで副業をしている方もいると思いますが、一方で、所得があがらず、社会保険料を含めていわゆる税金の負担がのしかかり、のぞまずに副業をしている方もいるのではないのでしょうか。
国がやるべきことは、副業を促進して、「そのことによって」所得アップをはかるのではなく、普通の人が、普通に働いて、普通に生活できる環境を整えることではないかと強く違和感を覚えたのでした。
※補足
労働時間を通算する際の計算方法
・先に労働契約を締結した事業場の確認
・先に労働契約を締結した事業場の所定労働時間を計算
・後に労働契約を締結した事業場の所定労働時間を計算
・所定外労働時間については、実際に行われた順に通算
先述の例では、A社と先に労働契約を締結し、また、A社の所定労働時間は8時間、B社の所定労働時間は6時間であると仮定しました。
この計算方法をあてはめると、仮にB社での勤務時間が、午前4時から午前7時までの3時間だったとしても(A社における労働より時間的に先行していたとしても)、先に労働契約を締結したのがA社である限り、B社は割増賃金を支払う必要があることになります。
「脱退一時金」制度の見直しへ
脱退一時金とは、
・日本国籍を有しておらず
・公的年金制度の被保険者ではなく
・老齢年金の受給資格期間(合算10年)を満たしていない
外国人が、帰国した後、2年以内であれば、日本の年金制度に支払った保険料の一部(おおむね被保険者負担分に相当する額)を、最大で60か月分まで支払う(返す)という制度です。
日本で老齢年金を受給しない外国人のいわゆる「払い損」を防ぐ制度です。
厚生労働省は、この制度の見直しを行い、
「再入国の資格がある場合」
には、脱退一時金を支払わない仕組みを検討すると発表しました。
2025年度の公的年金制度改正に反映される見通しです。
この見直しは、特定技能制度の創設により、いずれ必要になる動きだったと思います。
従前の制度では、
技能実習1号:1年
技能実習2号:2年
技能実習3号:2年
の合計が5年(60か月)で、技能実習を修了して帰国する外国人は、脱退一時金を受け取ることができていました。
2019年に在留資格「特定技能」が創設され、
技能実習1号:1年
技能実習2号:2年
特定技能1号:5年
の在留が認められるようになり、これにより、特定技能1号の在留期間5年の途中で、わざわざ住民票を抜いて(1月以上の)一時帰国をし、脱退一時金を請求してから、許可されている在留期限内に再入国するという外国人が現れるようになりました。
実務上、このケースは雇用主や在留管理制度との兼ね合いからトラブルを起こしていることが多いと感じており、今回の制度改正には期待をしたいと思います。
新しく検討されている制度では、脱退一時金の請求ができる対象期間を5年(60月)から8年(96月)に伸ばし、
技能実習1号:1年
技能実習2号:2年
特定技能1号:5年
が終了した後の(一時帰国ではない)本帰国でも、すべての期間に対して脱退一時金の請求ができることとなる見通しです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本日とりあげたどちらのテーマも、労働力人口の減少が影響していると考えます。
年収の壁をはじめとして、国はさまざまな制度の見直しや施策を実施していますが、社会保障制度の限界を、経済界や労働者に押し付けているように感じてしまうこともあります。
少なくとも弊所の関与先さまにおいては、働きたい方が、普通に働けば、普通に生きていけるような仕組みづくりのお役に立てるよう、社会保険労務士として、行政書士として、研鑽をはかってまいります。
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