令和7年6月施行|職場の熱中症対策が強化されます ― 事業主の対応とは?

こんにちは。
行政書士・社会保険労務士事務所オフィスのぞみです。
労働安全衛生規則(以下、安衛則)が改正され、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じて迅速かつ適切に対処することにより、熱中症の重篤化を防止するため、事業者に対し一定の対応が義務付けられることとなり、令和7年6月1日施行されます。
本記事では、この内容について解説します。

はじめに(熱中症のリスクと制度強化の背景)

令和6年の職場における熱中症による死亡者数は30人で、令和4年・5年に引続き3年連続で30人以上となりました。また、休業4日以上の死傷者数は、令和5年では1,106人となりました。

業種別の熱中症による休業4日以上の死傷災害発生状況は、過去5年間で建設業、製造業、運送業という順で多く発生しています。また、死亡災害では建設業が最多の45名、次いで製造業、警備業の18名となりました。

このような状況を踏まえ、厚生労働省が分析を行ったところ、以下の傾向が判明しました。
①死亡災害の約7割は屋外作業で発生しており、気候変動の影響により更なる増加が懸念されること
②令和2年から令和5年の熱中症による死亡災害103件のうち、100件が「初期症状の放置・対応の遅れ」により死亡災害に至ったこと
③「初期症状の放置・対応の遅れ」の要因として、症状が重篤化した状態で発見される「発見の遅れ」と医療機関に搬送等しないなどの「異常時の対応の不備」に大別されること。

そして、熱中症を重篤化させないためには、
・可能な限り早期に、異常が認められる者(熱中症になりそうな者)を発見すること
・異常が認められる者に対し、「暑熱作業からの早期離脱」「早期の身体冷却」「有効な休憩設備の利用」「躊躇ない医療機関への移送」を実施すること
が必要であり、各現場において、作業内容や作業環境に伴う熱中症のリスクや、上記の具体的実施方法を管理者・作業者が共有することが重要であると考えられるようになりました。

制度改正の概要

このような熱中症による災害発生状況や有識者のヒアリング、関係業界との意見交換を経て、今回の安衛則の改正が行われました(令和7年6月1日施行)。

その基本的な考え方は、事業者に対し
①見つける(例.様子がおかしい)
②判断する(例.医療機関への搬送・救急隊の要請)
③対処する(例.救急隊が到着するまで服を脱がせ、水をかけ、冷却する)
ための体制(体制の整備)を、事業場ごとの業務実態に即して具体的に定め(手順の作成)、関係者に周知することを求めています。

以下に、その内容を確認していきます。

事業者に義務付ける内容

(1)報告体制の整備と関係者への周知

熱中症を生ずるおそれがある作業を行う場合
・熱中症の自覚症状がある作業者
・熱中症のおそれのある作業者を見つけた者
が、その旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること。

ここで、「熱中症を生ずるおそれがある作業」とは、WBGT(湿球黒球温度)28℃以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施することが見込まれる作業のことをいいます。つまり、業種により対象が決められているわけではありません。

また、当該「おそれのある作業」に該当するか否かは、原則として作業が行われる場所でWBGTまたは気温を実測することにより判断する必要がありますが、通風のよい屋外作業においては、天気予報(スマホ等のアプリによるものも含む)、環境省の「熱中症予防情報サイト」等の活用によって判断が可能な場合にはこれらを用いても差し支えないとされています。

(2)熱中症のおそれがある作業者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるような手順等の作成と関係者への周知
・作業からの離脱
・身体の冷却
・必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること
・事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置やに関する内容や実施手順を定め、関係作業者に周知すること。

実務的対応

事業者に実務的に求められる対応としては、熱中症のおそれがある作業を行う場合には、以下に示す例のようなフロー図を定め、関係作業者に周知することが求められています。作業場の状況に応じて(典型的には一つの作業場に複数の関係機関の作業者が存在するような建設現場など)、責任者や責任者代理の連絡先電話番号を掲示しておくことも必要です。

また、どのような症状がある場合に熱中症を疑うのか、分かりやすく示しておくことも必要です。

なお、本義務には罰則が定義されており、各義務に違反した場合、都道府県労働局長又は労働基準監督署長より、作業の停止、建設物等の使用停止・変更等を命じられる可能性があるほか、行為者は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、法人は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

まとめ

熱中症の重篤化は、適切な予防法を知っていれば、予防できる事例も少なくありません。

また、今回事業者に義務付けられた内容は行う対応とは別に、そもそも熱中症を予防するための取組も有効です(下の図をご参照ください)。

働くことは生活の根源をなす営みです。私たち社会保険労務士は、働くすべての人が活躍できる環境づくりの専門家です。労働の場で、重篤な熱中症に罹患する方が発生しないことを、社会保険労務士として願ってやみません。

※この記事に記載の図表は、厚生労働省の特設サイトから引用しました。

熱中症対策義務化 × 労務管理におけるよくある質問

Q
東京都八王子市の企業で外国人雇用を行っている場合、熱中症対策の義務はどのように関係しますか?
A

東京都八王子市を含む多摩エリアの企業でも、外国人雇用の有無にかかわらず、熱中症対策はすべての労働者に対して義務付けられます。
特に製造業や運送業など屋外・高温環境での業務では、特定技能などの外国人労働者も対象となります。
行政書士・社会保険労務士の視点では、「在留資格管理」と同様に「安全配慮義務」として、全従業員に共通のルールを整備することが重要です。

Q
今回の制度改正で、事業者に求められる具体的な対応は何ですか?
A

今回の改正では、以下の3点が重要です。
①異常の早期発見(見つける)
②状況判断(判断する)
③適切な対応(対処する)

具体的には、報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が義務化されました。
社会保険労務士の実務では、これらを「フロー図」や「マニュアル」として整備し、現場で運用できる形にすることがポイントです。

Q
「熱中症のおそれがある作業」とはどのような基準で判断されますか?
A

基準は業種ではなく、作業環境によって判断されます。
具体的には、WBGT28℃以上または気温31℃以上の環境で、一定時間以上作業を行う場合が対象です。
そのため、製造業・外食・運送など幅広い業種で該当する可能性があります。
実務では、現場での測定や気象情報を活用し、該当するかどうかを日常的に判断する体制が必要です。

Q
特定技能外国人の在留資格申請や労務管理と、熱中症対策はどのように連動しますか?
A

特定技能による外国人雇用では、適切な労働環境の確保が前提となります。
熱中症対策が不十分な場合、安全配慮義務違反として労務トラブルにつながる可能性があり、結果的に在留資格の更新や運用にも影響するリスクがあります。
社会保険労務士としては、労務管理の一環として安全衛生体制を整備し、行政書士と連携して適正な雇用環境を維持することが重要です。

Q
熱中症対策を実務で運用する際、企業が特に注意すべきポイントは何ですか?
A

重要なポイントは「形式ではなく実際に機能する体制」にすることです。
具体的には、
・誰に報告するかを明確にする
・緊急連絡先を掲示する
・症状の判断基準を共有する
・現場で即対応できるフローを整備する

また、違反した場合には罰則(作業停止命令や罰金等)があるため、単なるルール作成にとどまらず、教育・周知まで含めた運用が必要です。
八王子・多摩エリアの企業においても、日常業務に組み込んだ形での運用が求められます。