技能実習制度と育成就労制度

こんにちは。
行政書士・社会保険労務士事務所オフィスのぞみです。

第213回国会において、外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律(以下、育成就労法)及び令和6年改正出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)が成立しました。

大枠として、
■在留資格「育成就労」及び「企業内転勤2号」の創設
■特定技能制度の見直し
■在留カードとマイナンバーカードの一体化
が改正の内容です。

この入管法改正と、技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)を抜本的に改正して法律名を育成就労法(外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律)に改める動きにより、「技能実習」の在留資格は廃止され、「育成就労」の在留資格が創設されることとなります。

今回から数回に分けて、新しい在留資格「育成就労」について、技能実習制度自体を振り返りながら、技能実習制度と類似する点・異なる点、特定技能との関係性などを、確認したいと思います。

なお、育成就労法については、2027年の改正法施行を目的として、整備が行われており、今後、本記事とは異なる決定が行われる場合もあることを申し添えます。

法改正の目的

近年、我が国における人手不足が深刻化している一方で、国際的な人材獲得競争も激化しています。また、これまでの技能実習制度では、制度目的と実態のかい離・外国人の権利保護などの課題が指摘されてきました。人手不足への対応の一つとして外国人の受入れが欠かせない状況にある中で、外国人にとって魅力のある制度を構築することで、我が国が外国人から「選ばれる国」となり、我が国の産業を支える人材を適切に確保することが重要だと考えられています。

今回の法改正は、技能実習制度を発展的に解消して、育成就労制度を創設し、これまで技能実習制度において指摘されてきた課題を解決すること、そして、育成就労制度と特定技能制度に連続性を持たせることで、外国人が我が国で就労しながらキャリアアップできる分かりやすい制度を構築し、長期にわたり我が国の産業を支える人材を確保することを目指すとされています。

本改正にかかわるスケジュール

本改正により、技能実習制度は発展的に解消されることが決定しましたが、技能実習という在留資格がすぐになくなるわけではありません。

新しく創設された育成就労制度は、公布日(2024年6月21日)からその基本方針・主務省令を3年かけて整備し、2027年に改正法を施行する予定とされています。

そして、施行日時点(2027年を予定)で、すでに入国して技能実習を開始している外国人は、引き続き技能実習を行うことができます。
また、入国して実習を開始していなくても、改正法施行日までに実習計画の認定申請がなされ、施行日から3カ月を経過するまでに実習を開始する場合には、技能実習を行うことができます。

なお、施行日時点で技能実習を開始している場合には、技能実習制度のルールが適用され、技能実習から育成就労に移行することはできません。

技能実習と育成就労の比較

■目的

技能実習制度は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする」とされています(技能実習法1条)。そして、技能実習は、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」とされています(同3条)。

一方、育成就労制度は、「特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保すること」を目的としています。

つまり、技能実習は、あくまで「人材育成とそれを通じた国際協力の推進」であり、労働力の確保として行われるものではないけれども、育成就労は、「人材育成と人材確保」を目的としていることが大きな違いです。これにより、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」としていた技能実習法3条2項は削除されました。

また、技能実習生の責務として定められていた「技能等の修得等をし、本国への技能等の移転に努めなければならない」については、育成就労外国人の責務として「技能の習得に努めなければならない」と改正されました。

このような制度目的の違いを踏まえ、育成就労制度では、外国人を労働者としてより適切に権利保護するという観点から、技能実習制度では認められなかった外国人本人の意向による転籍を一定の条件の下で認めることとされています。
また、受入れ対象分野を特定産業分野のうち就労を通じて技能を習得させることが相当なものに限定し、原則3年間の就労を通じて、人材育成によって特定技能1号の技能水準の人材を育成することを目指すとしています。

■在留資格

技能実習は、その年数や、企業単独型・団体監理型の別によって、「1号イ」「1号ロ」「2号イ」「2号ロ」「3号イ」「3号ロ」それぞれの在留資格として定められていました。

育成就労制度においても、単独型・監理型という2つの区分は残される予定ですが、在留資格としては、「育成就労」1つです。

■分野

技能実習は、2号移行対象職種として90職種165作業が認められていましたが、一方で、2号移行対象職種でも特定産業分野との連続性をもたず、技能実習を修了しても、特定技能に移行できない分野もありました。

育成就労制度における育成就労産業分野は、「特定産業分野のうち、外国人にその分野に属する技能を本邦において就労を通じて修得させることが相当であるものとして主務省令で定める分野」と定められています。つまり、特定産業分野の中に育成就労産業分野があり、3年間の育成就労の後、原則として特定技能1号に移行できる分野において、育成就労が実施される予定です。

■計画

技能実習制度では、技能実習を行わせようとする者は、監理団体の指導のもとに、技能実習生ごとに技能実習計画を作成し、認定を受けることができるとされています。

具体的には、実習実施者は、技能実習委計画を作成し、外国人技能実習機構に対し認定申請を行います。外国人技能実習機構は、計画の内容や受入体制の適性等を審査し、計画を認定することとされています。

育成就労制度でも、育成就労を行わせようとする個人または法人は、育成就労の対象となろうとする外国人ごとに、育成就労計画を作成し、外国人育成就労機構に提出して、育成就労計画が適当である旨の認定を受けることができる、とされています。また、監理支援機関は、育成就労計画の作成に関する情報の提供、助言、指示その他必要な指導を行うこととされている点も同じです。

なお、技能実習制度では、1号~3号の各段階で計画の認定が必要でしたが、育成就労制度では、当初から3年間の計画を作成し認定を受けることとなります。

■受入機関による区分

技能実習制度では、
▶団体監理型:非営利の監理団体(事業協同組合、商工会等)が技能実習生を受入れ、傘下の企業等で技能実習を実施
▶企業単独型:日本の企業等が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受入れて技能実習を実施
の2つの区分で、技能実習が行われてきました。

育成就労制度でも、受入機関別に、単独型育成就労と監理型育成就労が行われる予定です。

ただし、技能実習制度において、企業単独型の1号技能実習で行われていたような、比較的短期間の受入れに関するものについては、一定の要件のもと「企業内転勤2号」により受け入れることも想定されています。
また、技能実習制度では、現地法人の社員だけでなく、海外の取引先企業の社員等についても、企業単独型の実習により受入れが認められてきましたが、育成就労制度においては、取引先企業の社員等の受入れは「単独型育成就労」の形態では認められず、「監理型育成就労」の形態で受け入れることになります。

■監理団体と監理支援機関

育成就労制度における監理支援機関は、監理団体と同様に、主務大臣の許可を受けたうえで、国際的なマッチング・育成就労実施者に対する監理・指導、育成就労外国人の支援・保護等を行うことになります。育成就労制度では、これらの機能をより適切に果たすことができるよう、監理・支援・保護機能を許可する方向で許可の要件を見直すこととしています。

具体的には、
・受入機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限
・外部監査人の設置の義務付け
・受入機関数に応じた職員の配置の義務付け
などが許可要件として検討されています。

また、監理支援のインセンティブとなるよう、育成就労制度においても、優良な監理支援機関に対して手続きの簡素化等の優遇措置を設けることが検討されており、この点は、技能実習制度における優良な監理団体への優遇措置と同一です。

育成就労と特定技能の比較

育成就労制度と特定技能制度は、深刻な人手不足に対応するための制度である点では共通していますが、特定技能制度で受け入れられる外国人が、一定の専門性や技能を有し「即戦力となる人材」を想定しているのに対し、育成就労制度で受け入れられる外国人は、入国時点ではそのような専門性や技能は求められていないという点で異なります。

また、育成就労制度は原則3年、特定技能1号は5年を上限とする在留期間、特定技能2号については、在留可能な期間に上限はありません。

育成就労から特定技能へ

現行の特定技能制度では、技能実習2号を良好に修了した者であれば、技能実習から特定技能1号への移行に際して、技能にかかる試験及び日本語能力にかかる試験の合格を免除する者としていますが、育成就労制度では、技能に係る試験及び日本語能力に係る試験の合格を特定技能1号への移行要件とする見込みです。

なお、特定技能1号への移行に必要な試験に不合格になってしまった場合には、最長1年の範囲内で、一定の在留継続を認めることができる見込みですが、詳細は未定です。

また、特定技能への移行要件を満たす(試験に合格している)ことに加え、現に在籍している育成就労の受入機関における就労期間が一定の期間を超えている場合に限り、育成就労の途中で特定技能1号に移行することも、認められる見込みです。

特定技能制度の見直し

本改正により、1号特定技能外国人の支援業務の委託先は、登録支援機関に限定されることとなりました。また、登録支援機関や受入機関について、要件を厳格化・適正化されることが予定されています。

したがって、現在、1号特定技能外国人の支援業務を、登録支援機関以外に委託している受入機関については、改正法施行後は、自ら支援業務を行うか、登録支援機関に支援業務を委託する必要があります。

なお、経過措置として、改正法施行後、最初に在留期間の更新申請を行うまでの間は、引き続き従前の委託先(登録支援機関ではない委託先)に支援業務を委託することができますが、更新申請の際には、登録支援機関に支援を委託していなければなりません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
技能実習制度を解消して、新しく認められる「育成就労制度」について、おもに技能実習制度との比較の観点から確認いたしました。

次回は、そもそも「技能実習」とは、どのような制度だったのか、何が問題とされていたのかを確認したいと思います。

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