こんにちは。行政書士・社会保険労務士事務所 オフィスのぞみです。
本日、厚生労働省から「労働基準監督署等が外国人技能実習生の実習実施者に対して行った令和5年の監督指導、送検等の状況」という資料が発表されました。
速報として、概要を確認しておきたいと思います。
発表された資料の概要
令和5年に全国の労働基準監督署において、労働基準関係法令違反が疑われる実習実施者10,378事業者に対して監督指導を実施したところ、7,602(73.3%)事業場で同法令違反が認められた。
主な違反事項は、
(1)使用する機械等の安全基準(23.6%)
(2)割増賃金の支払い(16.5%)
(3)健康診断結果についての医師等からの意見聴取(16.2%)
だった。
73.3%という数値
73.3%も違反があるなんて、やっぱり技能実習はひどい制度だ!
と思われる方もいらっしゃると思います。
たしかに、73.3%という数値は高いと思います。
それに、割合の多寡にかかわらず、労働基準法違反はあってはならないことであることは間違いありません。
ただ、概要で記載のとおり、この調査はそもそも「違反が疑われる」実習実施者に対して行われているもので、すべての実習実施者を分母としているわけではありません。つまり、技能実習実施者の73.3%が違反をしている、というわけではないのです。
一方で、以前も同様に「疑われる事業場」に対する調査は行われており、この数値を、別の事例と比較してみたいと思います。
(事例1)
令和5年度に全国の労働基準監督署において、労働基準関係法令違反が疑われる自動車運転者を使用する事業者3,711事業者に対して行った監督指導の結果、労働基準関係法令違反が認められたのは、3,049事業場(82.2%)だった。
(事例2)
令和5年度に、長時間労働が疑われる事業場(26,117事業場)に対して、全国の労働基準監督者が監督指導を行った結果、21,201事業場(81.2%)で労働基準関係法令違反が確認された。
では、疑われていない実施者も含めて、技能実習実施者(技能実習を受入れている事業者)は何者(法人・個人)あるのでしょうか。この点については、同じ時期での調査結果がまだ公表されていないのですが、令和4年度の実習実施者は、64,945者とされています(外国人技能実習機構「令和4年度における技能実習の状況について」)。
仮に、この数字がおおむね令和5年においても変わっていなかったとすると、
7,600(指摘を受けた事業者)÷65,000(対象事業者の総数)=11.69%
の実習実施者で、労働基準関係法令違反が認められた、と仮定することができます。
おそらく、コロナの影響がなくなり、令和5年度の実習実施者は、令和4年の実習実施者より増えている(分母が大きくなっている)ことが予想されますので、実際の数字はもう少し下がるように予測しています。
是正勧告事例
調査が、そもそも「疑われる事業者」に対して行われていることは、すでに述べていますが、どのようなことをきっかけに違反事例が発覚するのでしょうか?
外国人技能実習生の場合、「外国人技能実習機構」への相談という端緒が考えられます。外国人技能実習機構は、技能実習生から母国語での相談を、電話・メールにより受け付けています。とくに、メールによる相談は、24時間受付可能で、緊急SOSとして、技能実習生の間ではよく知られています。
また、技能実習生が実習中にケガをしたことによって、労働安全衛生関係法令違反が発覚することもあります。
今回の資料で具体的にあげられた是正勧告事例を要約してみます。
■鉄鋼業の事業場において、技能実習生3名および日本人1名に対し、36協定で定めた延長時間(1か月あたり80時間)を超える違法な時間外労働(技能実習生で1か月最大90時間30分、日本人で1か月最大114時間)を行わせていた。
→労働基準法違反として是正勧告
■建設会社において、技能実習生を含めた労働者9名に対して、1週間につき40時間を超えた時間外労働に対する割増賃金について支払われていなかった。
→労働基準法違反として是正勧告
■土木工事現場で玉掛け作業を行っていた技能実習生が、玉掛け用具に手を挟まれ被災した(左手中指挫創、休業2週間)ことから、無資格で同作業を行わせていたことが確認された。
→労働基準法違反として是正勧告
■縫製会社の技能実習生が、終業時刻にタイムカードを打刻し、その後時間外労働を行うように命じられ、その分の割増賃金が支払われていなかった。
→労働基準法違反として是正勧告
送検事例
次に、より悪質性が高いと評価され、労働基準監督署の司法警察権にもとづき、送検が行われた事例を要約します。
■土木工事現場において、技能実習生に土砂の運搬作業を行わせるにあたり、掘削作業中のショベルカーと接触するおそれがある箇所に立ち入らせており、バックしてきたショベルカーに足をひかれた技能実習生が、片足切断の大けがを負った。
→労働安全衛生法・同施行規則違反で送検
■自動車整備工場で、技能実習生1名に対し、36協定で定める時間(1か月70時間)を超え、1か月あたり100時間以上、また連続する複数の月を平均して1カ月当たり80時間を超える違法な時間外・休日労働(1か月あたり最大109時間30分)を行わせていた。また、立ち入り調査の際、これらを隠ぺいするため、虚偽のタイムカードを提出した。
→労働基準法違反で送検
外国人技能実習機構による行政処分等の公表
本日公表された労働基準監督署による指導監督の結果では、実習実施者の実名は公表されませんでした。
しかし、技能実習実施者に対しては、主務大臣である法務大臣と厚生労働大臣による報告の徴収、帳簿書類の提出若しくは提示の命令、出頭の命令、質問または立入検査を行う権限が認められています。
そして、調査によって、実習実施者が認定計画に従って技能実習を行わせていないことが判明したときには、改善命令や認定の取り消しの対象となるのですが、これらの判断がいかなる事情のもとになされたのか(どのような事実が把握され、どのような違反があると判断されたのか)は、外国人技能実習機構のホームページに、実名で公表されることとなります。
法令順守は、労働者の権利を守り、企業が持続的に成長するために重要であることはもちろんですが、そのことのみならず、これら違反事例の詳細が公表されることは、信頼されるべき企業にとっては、大きな損失となります。
労働関係法令・出入国関係法令を守り、適切な外国人雇用を進めていくことの重要性をあらためて考えさせられる報道でした。
まとめ
私が尊敬する社会保険労務士のお一人は、社会保険労務士法第一条が、その目的として「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする」と定めていることを繰り返しおっしゃっています。
辞書をひくと、「発達」とは、「そのものの機能がより高度に発揮されるようになること。より完全な形態や機能をもつようになること。」と説明されています。私たち専門職が目指すところは、単に事業が勢いよくドンドン拡大していく姿ではなく、関与先が「よりよい形で」「より高度に」その役割を社会のなかで果たしていく、そのような事業の支援の在り方を目指したいといつも考えています。
労働関係法令・出入国関係法令ともに、時代の変化にあわせてめまぐるしい法改正が行われる分野ではありますが、行政書士・社会保険労務士事務所 オフィスのぞみは、この両分野の専門職として、外国人を活用されるお客様に寄り添い、その事業の発達のために業務に取り組んでまいります。
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