≪解説します≫「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」優勝アイデアに関する厚生労働省から各都道府県労働局への通知について

こんにちは。行政書士・社会保険労務士事務所 オフィスのぞみです。
今日は、「外国人業務」から少し離れて、このコラムを読んでくださっている皆さまも、きっと気になっていたあの報道について、社会保険労務士の立場から解説します。

「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」について

先般、内閣府で行われた「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」において、「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする」と題する応募アイデアが「優勝アイデア」として表彰され、話題になりました。

この優勝とされたアイデアは、
「労働者に終業時刻以降の残業を禁止するとともに、労働者は終業時刻以降に個人事業主として残業相当分の業務を受託することによって、企業は社会保険料や残業代支払いのコストを削減できる。他方で、労働者は終業時刻以降の業務について社会保険料及び所得税の控除を免れることとなることから、手取りの増加に繋がり、もって新たな財務等を必要とせず、企業のキャッシュフローも改善可能である」
こと等を提案するものだったとされています。

全国社会保険労務士会連合会の声明

このアイデアが内閣府の行うコンテストで「優勝アイデア」とされたことに対して、全国社会保険労務士会連合会は、
■労働者が使用者の指揮命令下で労働した結果、勤務時間内に業務が完了せず、時間外労働が発生しているものについて、時間で「労働契約に基づく労働者としての労働」と、「業務委託契約に基づく個人事業主としての業務」とに切り分けることは、労働基準法で定める割増賃金の支払い義務を免れるための行為とみられ、法の趣旨に反する
■健康保険、厚生年金保険等の社会保険制度は、労働者とその家族の生活を守るセーフティーネットであり、報酬に応じた保険料を納付することによって労働者とその家族の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的としているところ、事業主が社会保険料を「コスト」と捉えその負担を免れるため、あるいは労働者がいわゆる手取りの給与額を増やそうとするがため、業務委託契約により、その適用から除外することは、制度の趣旨に反する行為である
との声明を発表しました(令和6年7月17日)。

厚生労働省から各都道府県労働局への通知

厚生労働省(厚生労働省労働基準監督課)は、各都道府県労働局(労働基準部長)に「労働者に終業時刻後の業務を個人事業主の形式で行わせることに関する相談への対応について」という通知を送付しました(令和6年8月17日)。
本日その内容を把握しましたので、概要を以下に記載します。

■一般論として、個人事業主として業務を行っていても、実態として労働基準法(以下、「労基法」)上の労働者に該当する場合には労働基準関係法令が適用される。
 そして、労基法上の労働者に該当するか否かの判断に当たっては、実質的に使用従属関係があるかどうかについて、働き方の実態を勘案して判断する必要があり、厚生労働省としてはこれまでにもこの考え方について周知を図ってきたところである。

■労働基準関係法令における考え方について
 労基法上の労働者に該当するか否かについては、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断する必要がある。
 一般論として、終業時刻まで労働者として企業で行っている業務と同様の業務を、終業時刻以降も引き続き個人事業主として受託するような場合、終業時刻までとそれ以降で使用従属関係に変化が生じなければ、形式上個人事業主としての業務委託契約が締結されていたとしても、実態として労基法上の労働者であると判断され、終業時刻以降の業務について割増賃金の支払い等労働基準関係法令に基づく対応が必要である。

まとめとおまけの写真

いかがでしたでしょうか。
当該アイデアが「優勝アイデア」とされたことについては、驚きをもって報道されたと感じており、SNSでも批判の声を多く目にしました。

連合会の声明、そして厚生労働省からの通知は、皆さまの従前のご理解のとおりだったことと思いますが、労働関係行政の責任部門の公的な見解としてご参考にしていただければ幸いです。

写真は、先ほど訪れたスーパー銭湯でとりました。本記事とは関係ありません。